桂枝雀落語ライブ 5

『うなぎや』 35:05 下座 三味線森キヨ子
桂雀司
鳴物桂団朝

『蛇含草』 25:27 下座 三味線森キヨ子
三味線森垣と実
桂む雀
鳴物桂米左
解説=小佐田定雄(落語作家)

◇らいぶ・うらばなし

『うなぎや』

 『万葉集』をひもときますと…今回はいきなりアカデミックな調子ではじまりましたが、この格調高さも、そう長くは続きませんのでご安心ください…大友家持*の歌に「石麿呂《いわまろ》に我物申す夏痩せに よしといふものぞ鰻《うなぎ》とり召せ」というのがあります。吉田石麿呂という痩せたお爺さんがいたんだそうです。その石麿呂さんに「夏痩せによろしおまっせ。鰻をお食べなさい」と声をかけたわけです。この歌はかなり有名なのですが、実はこの続きがあるのです。「痩す痩すも生けらばあらむをはたやはた 鰻を取ると川に流るな」。つまり、「なんぼ痩せてても生きてたらええやおまへんか。鰻を捕ろうと思って川にはまって流されなさんなや」と追い打ちをかけたわけです。ひとをからかうのに三十一文字を使うなんて、さすが家持っつあんです。借家に住んでいる人間にはできんことです。
 歌のできは別としても、千二百五十年前の奈良時代にも「夏バテには鰻」という定評があったことがわかる貴重な歌です。
 東京の鈴本演芸場では、毎年年末に米朝&枝雀のお二人を中心とした「独演会」と「一門会」が開かれます。これは、その高座のライブ版でして、マクラで枝雀さんが「さきほどの噺」と言っているのは、中入前に演じた『三十石』のマクラのことです。
 なお、『三十石』はこのシリーズにも収められています。この日の高座ではないのですが、マクラの内容はほぼ同じですので、そちらのほうもお楽しみに。

(平成5年12月26日 上野鈴本演芸場にて収録)

◇らいぶ・うらばなし

『蛇含草』

 「ジャガンソウ」という草は実在するんだそうです。「オヘビイチゴ」という草がそれで、学術的に申しますとばら化の多年草ということになるんだそうです。本州、四国、九州および朝鮮半島、中国、インド、マレーシアの野原や田の畦に生えており、煎じて飲むと、高熱、マラリア、咳、喉の痛みに効能があり、ヘビに咬まれた傷や、虫さされの部位に塗るとよいと申します。また、狂犬に咬まれたときの薬にもなるんだそうです。ただし、この噺の中で紹介されているような効用はなさそうですので、どうぞご安心ください。
 真夏の噺です。この噺を演じるとき、演者は白っぽい衣装の上に紗の羽織を着用することがあります。サゲの状況を視覚の面からもフォローしようという演出です。サゲでは「餅がじんべ着て、プーッ」と言いながら、演者はほっぺたをふくらませ「餅」になるわけです。もちろん、言葉だけで「餅がじんべ着て座ってた」でサゲる形もありますが、なんと言っても前者のほうが派手で陽気です。落語という芸の特色として、犬とか猫、虫などいろんなものに変身できることがあげられますが、餅に変身するのはこのネタだけです。
 途中で餅を曲喰いするシーンがあり、客席から拍手がおこっています。中でも「淀の川瀬は水車」などは、是非とも生の高座でご覧いただきたい至芸です。ただし、決して真似はなさらないでくださいね。(誰がするもんか!)

(平成4年7月15日 大阪サンケイホールにて収録)

*(大友家持=大伴家持《おおとものやかもち》)

桂枝雀落語らいぶ

Last modified: Fri Jun 14 14:51:14 2002