人間の自然な生き様を描く落語には、遊び、道楽は格好な題材です。中でも男の三道楽、「飲む」「打つ」「買う」は、よく登場します。この三つのうち、現在も公に認められているのは「飲む」だけですが、残る二つも、陰で行われているようです。人間が生息している限り、この三つの道楽は無くならないでしょう。
「飲む」は酒です。今はいろいろな種類の酒が存在しますが、江戸時代は日本酒に代表されます。飲む酒の種類は、落語にとってはどうでもよいので、飲むという行為、用という状態が大事なのです。
落語の酒は、飲みたい人間が楽しんで飲んでいるというのはあまりありません。それだけでは落語にならないのです。飲んで酔った結果何か起こる、あるいは、飲んではいけないのに飲んでしまう場合がほとんどです。
今回収録した三席のうち、『居酒屋』は勝手気ままに飲んでいるように見えますが、酔って小僧をからかうという行為が発生し、お笑いになります。酒飲みの形態を描いたものの一つです。『禁酒番屋』と『二番煎じ』は、飲んではいけないのに飲むという行為です。禁止している側でも飲むところに、面白さがあります。
酒飲みの出てくる噺は、この他にたくさんあります。第三回に収録した『替り目』、第四回の『首提灯』、第六回に登場する『猫の災難』に、『一人酒盛』『夢の酒』『試し酒』『らくだ』『棒だら』『盃の殿様』など。『居酒屋』の続きとされている『ずっこけ』は、典型的な酔っぱらい噺です。
金馬の出世作品であり、代表作品であります。まだ無名だった昭和四年、ニットーレコードにこの噺を吹き込んだところ、大当たりして一躍全国にその名を知られました。
元々は『ずっこけ』という噺の前半で、それを金馬が一席に独立させたと言われています。しかし金馬は、『万病円《まんびょうえん》』から分かれたものだと言っていました。また『両国八景《りょうごくはっけい》』の一部だったとも言われ、今は誰もやらなくなってしまった『関津富《せきのしんぷ》』の中にも入っています。上方の『煮売屋《にうりや》』にもこのくだりがあって、これを初代桂春団治が独立させて、『居酒屋』の題でレコードに入れています。
要するに、あちこちに入っていたくだりなのですが、金馬の場合は『ずっこけ』の前半に『万病円』の一部を加えてまとめたのでしょう。
酔っ払いが、店の小僧をからかっているだけの噺ですが、聞いていて実に面白く組み立てられています。地方の人にも分かりやすくしたのが、レコードで全国的にヒットしたゆえんでしょう。
元来は上方の噺で『禁酒関所』と言いました。それを、明治時代に三代目柳家小さんが桂文吾《かつらぶんご》から教わって、東京へ持って来ました。みごとに江戸落語に置き換えられて、上方色は一掃されています。これが七代目三笑亭可楽に伝わり、その可楽から小さんが教わりました。
上方のは、女に小便をさせるところがあり、女は一升徳利の中へはしにくいというので、「店からじょうご持って来い」と言うくだりがあります。またサゲも、今は東京と同じ「正直者めが」でやっていますが、以前は「このうえ裏門は御免や」「糞《ばば》食わされる」という汚いものでした。小さんは、努めてきれいにやっています。
噺の中に「どっこいしょ」というついうっかり言ってしまって、カステラではないとばれるくだりがあります。これは可楽ではなく、三代目の柳亭燕枝《りゅうていえんし》が考えたものだそうです。また、小便屋という商売はありませんが、これはとっさに口から出た言葉と解釈して、小さんはやっています。
ある時小さんが、小便を持って来た者に対し番屋の侍が「よし、通れ」と言い、持って来た者が困ってしまう演出でやったのを聞きました。これは面白いと思いましたが、後で本人に聞いたら、うっかり間違えたのだそうです。
馬生の芸風にぴったりの噺です。派手に大げさにやっては、ぶちこわしになります。むしろ地味に、丁寧に演じてこそ味が出て来ます。江戸時代の庶民が、共同で火の用心の夜回りをするのは、火事の多かった時だけに欠かせない行事です。そこへ役人の武士も顔を出して、それぞれに人間性をのぞかせます。寒い冬の季節感も十分に出ています。馬生は特に宗助《そうすけ》さんという、チョイ役の人間の使い方がうまくて、この人間がいるおかげで、後半の役人と月番とのやりとりがぐっと引き立っています。
元は上方の噺で、大正時代に五代目三遊亭圓生が東京へ持って来ました。上方では現在も講座にかけられていますが、もっとアクの強いやり方です。
江戸時代の小咄に原話があります。元禄三(1690)年に出た『かの子ばなし』に載っている『花見の薬』で、これは夜回りではなく、禅寺の花見に薬と称して酒を持ち込みます。夜回りでやっているのは、同じところに出た『軽口はなし』の「せんじやうつねのごとく」です。
Last modified: Thu May 2 18:13:18 2002