『真景累ヶ淵』は、三遊亭圓朝二十一歳の処女作と言われています。全部やると十五時間くらいかかる長い噺ですが、前半の八席で一応の区切りがついています。圓生は、この前半しか高座にかけませんでした。『宗悦殺し』『深見新五郎』『豊志賀の死』『お久殺し』『お累の婚礼』『勘蔵の死』『お累の自害』『聖天山』で、ソニーから発売されたCD『圓生百席』に、全部収録されています。『豊志賀の死』は、八席のうちの三席目に当ります。圓生は、単なる怪談噺ではなく、豊志賀、新吉、お久の三人が織りなす男女間の人間模様を、生々しく描いています。
この場面に到るまでのあらすじを、書いておきましょう。皆川宗悦という盲人が、旗本の深見新左衛門に貸した金を取り立てようとして、殺される。新左衛門は、お熊という下女に手をつけ、はらませたが、宗悦の亡霊に取り付かれて乱心し、殺される。深見家は断絶、お熊は産んだ女の子を連れて郷里へ帰る。新吉という二歳になる新左衛門の子は、下男の勘蔵が連れてどこかへ去った。
新左衛門の子新五郎は、家出をしていたが、帰ってみると家は断絶、死のうとしたのを、下総屋という質屋に助けられ、そこに奉公する。この店で働くお園は、宗悦の娘。このお園に惚れた新五郎は、蔵の中で誤って藁を押し切る押し切りでお園を殺してしまう。新五郎は百両盗んで仙台へ逃げたが、江戸へ戻ったところを捕らえられる。
このあとが『豊志賀の死』ですが、噺はさらに続きます。
新吉はお久を連れて下総の羽生へ行ったが、お久が豊志賀そっくりの顔になったので、鎌で殺してしまう。それを土手の甚蔵という悪いやつに見られる。甚蔵は金があると思って新吉と兄弟分になったが、新吉が一文無しと知り、しぶしぶ家におく。
お久の伯父三蔵は、羽生の資産家。その妹のお累と新吉が、所帯をもつ。江戸から手紙が来て、伯父として新吉を育ててくれた勘蔵が死にそうだという。江戸へ駆け付けた新吉は、自分が深見新左衛門の子である証拠の迷子札をもらう。駕籠の中で夢を見て、兄新五郎が処刑されたのを知る。羽生へ帰った新吉は、お賤という女のところへ通うようになる。
新吉に邪険にされたお累は、苦しんだ末に自害する。
新吉は、お賤の旦那である名主の宗右衛門を殺したが、それをねたに甚蔵にゆすられる。聖天山に宗右衛門の金が埋めてあるというので、新吉は甚蔵を連れて堀に行き、甚蔵を山から落とす。お賤と新吉が安心しているところへ、死んだはずの甚蔵が現われたが、何者かに鉄砲で撃ち殺される。
ここまでが、圓生が演じている前半です。後半は、鉄砲で撃ったのはお賤だったというところから始まり、お賤と新吉が逐電するのですが、新しい人物がたくさん登場して、因果関係を除けば別話のようになっています。
Last modified: Fri May 3 21:12:08 2002